2011年2月26日土曜日

「おふくろの味」


子供の頃から我が家の食事は基本的にイギリス式であった。母と結婚してすぐ、父はイギリスの両親にイギリス料理のクックブックを送ってもらい、母に「プレゼント」しました。父は和食も大好だけれど家で毎日食べるのはイギリス料理。彼にとっては和食と外で食べる「ごちそう」ものらしい。 

一般的に「おいしくない」と思われているイギリスの食事。

そんなのは大嘘!

誰が最初に言い出したのでしょう。その人はイギリスをあまりよく知らなかったのだと思います。 かわいそうに、あまり良い思いしなかったのかも…。 

確かにまずいお店もありますよ。 でも日本にだってあまりおいしくないお店もあるし、フランスにだって料理が下手な人もいるにきまっています。

本来のイギリス料理とはシンプルでありながら素材を生かしたとても美味しいものなのです。良い材料を使えばソースでごまかしたり、余計なものを加えたりする必要がなく、素材の美味しさそのものを楽しめます。それがイギリス式。

塩こしょうでシンプルに味付けし、ほんのりローズマリーの香りをしたローストポーク。焼き上がると外の皮と油の部分がこんがり、さくさく。そして中のお肉は柔らかくてジューシー。残った肉汁で作ったグレービーソースをたっぷりかけてふわふわのマッシュポテトと一緒に食べる。Mmmmmm! Delicious!

イギリス料理本をもらった母は自分の料理のセンスを生かしながらすぐにレシピを自分のものにし、私に言わせると「世界一美味しいイギリス料理」をこの日本で作っていました。でもやっぱり母は日本人であって必ずテーブルの隅っこにあったのがライスラムローストにミントソース、ポテトグラタンと人参のグラッセを添えてその横にはライス。クリスマスターキーにセージ&オニオンの詰め物。ターキーと一緒に焼いた外がかりかり中がふんわりのローストポテト。芽キャベツ、インゲンとベーコンの炒め物、アップルソース….そしてごはん。ブラッキン家の食卓にはお米はかかせなかったのです。でも、お肉、グレービーソース、そしてごはんの組み合わせ、たまらなく美味しいのです。 あまりお行儀はよくないかもしれませんが

イギリス料理で育った娘達であってもやっぱり胃袋の半分は日本の胃袋。いくら横にライスがあっても週に5日イギリス料理が続くとやはりお醤油の味に飢えてくる。幸いに父も週に2日ほどは六本木にあった外国人が集まるパブで他のイギリス人達と息抜きをしていたのでそんな日は私たちも英国料理から息抜きができたのです。忙しかった母にとっては「手抜き」ができた日でもありました。

そんな日の一番人気料理が「与論どんぶり」。

母が名付けたのですが、なぜ「与論どんぶり」なのかは未だに謎。与論島の海でイワシがとれるわけでもないし。

あまりイワシはいそうではない与論の海
与論の別荘へ行っても母は原稿の締め切りに追われ続け、忙しい日々が続いていました。東京だったらお手伝いに来てくれていた人に食事を作ってもらったり、外で食べたりできたのですが与論ではそんなわけにはいきませんでした。一番近いお店でも車でしか行けなく、そこにあったのはたった数件の居酒屋だけ。結局家で何かつくるしか方法はありませんでした。きっとそれで、5分でできてしまう与論どんぶりがたびたび登場したのでしょう。


では、与論どんぶりとは何でしょう?

オイルサーディンを油ごとフライパンでさっと焼いて、お醤油をジュッっとかけて七味唐辛子をふり、あつあつのご飯に盛りつけて万能ネギときざみ海苔をかけたもの。




本当に簡単で美味しいのです。

私にとっての「おふくろの味」とは、日本人の母がつくっていたイギリス料理、そしてこの与論どんぶり。

今では自分の自慢料理がこの2つになっています。